2017.05.15

PHILOSOPHY

「障害者の性」は特別なものではない。性を公共たらしめる「ホワイトハンズ」に迫る。

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「障害者の性」と聞いて、何を思い浮かべただろうか。
一般社団法人ホワイトハンズでは、手足に障害があるなど、物理的に射精が困難な障害者を対象とした射精介助を行っている。食事や入浴と同じように、健康的な生活を営むための介護として、社会に認識されるようになって欲しいと代表者である坂爪真吾(さかづめしんご)さんは語る。

 

今回は坂爪さんへのインタビューと、関西支部の代表者として坂爪さんの活動に賛同し、ご自身も脳性まひの当事者として「障害者の性」問題に取り組んでこられた菅原保秀さんへのインタビューを通して、障害者や性を取り巻く環境について考えていきたい。

 

坂爪真吾さん/「一般社団法人ホワイトハンズ」代表理事


1981年生まれ。東京大学在学時代より性風俗の研究を行う。2008年に「障害者の性」に関する課題解決のための非営利組織「ホワイトハンズ」を設立。以降精力的な活動を続ける。
著書:『セックスと障害者』イースト・プレス、2016年 他

 
 
ーーそもそもジェンダーだったり、性についての事柄を研究のテーマにしたきっかけはなんだったのですか。

 

高校の頃から社会学系の本などを読んでいたのですが、90年代の終わり頃に女子高生の援助交際ブームがあって、様々な評論家や研究者、政治家や性教育関係者などが議論を戦わせていた様子を見て、性に関する社会問題に興味を持ちました。大学に入ってからは、社会学という切り口から性風俗の世界を調査・研究していました。

 

ーー設立の際にNPOを目指したというのは、行政の性に対して堅いスタンスと企業の娯楽面に偏りがちな部分の間をとる形でしょうか。企業という形を取らなかったのはなぜですか?

 

アダルト市場自体が飽和している気がしたからです。AVでも風俗でも、性を商業的に扱うこと自体がもう色々な意味で煮詰まっているように思えた。市場もどんどん縮小していて、ユーザーの高齢化も進んでいるので、あまり魅力を感じませんでした。もう少し違った角度からアプローチしたいという思いがあり、NPOを目指しました。

 

ーーサービスの価格設定に関して、美容院と同じような感覚で利用できる値段ということで設定されていましたが、そこにはどういった想いがあるのでしょうか。

 

性に対するサービスは、どうしても利用に至るまでのハードルが高くなってしまいますよね。サイトも見にくかったり、情報が信用できなかったり、依頼をしてもどんな人が来るか分からなかったり・・・といった課題がある中で「利用の敷居を下げる」ことが私たちの一つのテーマです。

 

ーー現在、実際に射精介助を行っているスタッフさんは何名でしょうか

 

東京に2名、関西に2名、名古屋に1名、仙台に1名、新潟に1名です。利用依頼は本部である新潟の事務局で受けて、その後各地のケアスタッフを派遣するという形になります。ケアスタッフは全員看護師もしくは介護士の資格を持っています。

 

ーーこうしたサービス(射精介助)についてどのように扱うことがベストだと考えていますか。

 

食事介助や排せつ介助のように「日常生活の中で行われるケア」というスタンスでやっていきたいと考えています。

 

ーーサービスに関して、男性のみを対象とするなど、ある程度対象を絞っておられますが、今後ニーズが見えてきた場合にはどのように対応していこうと考えていますか。

 

女性に関しては、お金を払って性的なサービスを受けるという文化や習慣が無いなど、男性とは性に対する価値観やニーズが異なるので、ケアという枠内でサービスを提供することは難しいと考えています。

今後は、若い世代の障害当事者の中から、恋愛やセックス、結婚や妊娠・育児などのセクシュアリティに関する事柄について、周囲のロールモデルとなったり、自分の意見を世間に発信できるような方がどんどん出てきてくだされば嬉しいです。そのことが、結果的にサービス利用者の増加につながると思います。

 

ーー昨年は24時間TVの裏でNHKの教育番組バリバラによる「感動ポルノ批判」がなされるなど、メディアにおける障害者の取り上げ方にも少し動きがあったように思いますが。

 

自分としては、別に感動ポルノが悪いとは考えていません。感動ポルノと呼ばれるような番組や報道によって、障害者の問題が世間に知られやすくなるという利点もあります。そういった意味では感動ポルノ的な報道自体を悪だとは思いませんが、メディア上に感動ポルノしかないという状態はまずいですよね。障害があるから皆真面目というわけではないし、天使というわけでもでもない。色々な障害者がいる中で「障害者=感動」という図式に全てが染まってしまうのはよくない。

 

ーー先日筋ジストロフィーで眼球しか動かせない方が、目の動きを感知するキーボードで意思を伝えられるようになったというニュースもありましたが、デジタルやテクノロジーの力で今後射精介助に関しても人の介護をによらない介護が可能になるかもしれません。そういった状況に対してはどのように思われますか。

 

どこまでテクノロジーが入ってくるのか予想がつかないところもあるんですけれども、障害者の生活はインターネットによって変わった部分がとても大きい。通信手段も電話からメールになって、コミュニケーションがかなり楽になった部分もある。

ただ、性に関してはテクノロジーが入ってきている部分はまだまだ少ない。未開の地なのかなという感じはあります。射精介助に関しては、将来的にはロボットでやる時代も来るかもしれないですが、それはどうなのかなという思いもあります。少なくとも、現時点では「ロボットに射精を介助してほしい」という利用者のニーズは全くありません。ロボットが射精介助をするというのも現実味をあまり感じません。

 

ーー確かに本来自分の手を使ってしたいこと(射精)を人の手で代わりにやる(介助)というスタンスからすると、ロボットが入ってしまうことで遠ざかってしまうような気もしますね。

 

そうなんですよ。介護って、みんなロボットの利用を推奨するじゃないですか。でも保育でロボットを利用しようとは誰も言わない。このギャップは何でしょうか。介護であればロボットでもできる、ロボットにやらせておけばいい、という価値観が背後にあるのかもしれません。保育を全てロボット化しろなんて言ったら、大炎上ですよね。

 

ーー介護にロボットを利用するという動きに対しては批判の声はあまり聞こえませんね。

 

介助を受ける当事者からみたら、なんでもかんでもロボットにしてもらうというのは良い気分がしないと思います。

 

ーー現状の課題はありますか。

 

射精介助は若い人の利用が少ないんですよね。40歳以上の方が中心で、20代の方はほぼいない。障害を持っている若い世代の人たちがもっと性に対して発言できる場があるといいなと思います。声をあげやすいような環境、若い人たちが性に関する話をできる場や仕組みがあればと考えています。

 

ーー行政との関係性なども含めて、今後こうしていきたいという想いはありますか。

 

当面の目標は、障害者の性に関する支援のガイドラインを作ることです。それぞれの障害に合わせた支援の方法をうまくまとめてガイドラインにしていきたいです。性に関するケアの統一基準を作ることで、全国のあらゆる現場で、障害者の性の健康と権利を守ることのできる支援を実施できるようにしたいと考えています。

 

 

菅原保秀さん/「一般社団法人ホワイトハンズ」関西支部代表

菅原保秀(すがはらやすひで)さん
ホワイトハンズ参画前から「障害者の性」に関するシンポジウムを開催するなど、長年問題に取り組んできた脳性まひの当事者。
現在は関西支部の代表者として、利用者とスタッフの仲介役などの業務を担っている。

 

 

ーー相当なITマスターとお伺いしたのですが、SNSなども利用されるのですか。

 

はい。twitterはあまり利用しないのですが、facebookではホワイトハンズに関わるニュースやトピックがあればホワイトハンズのアカウントで投稿しますし、趣味のパソコンに関するネタなんかは個人のアカウントで投稿します。あとは障害者や福祉に関するニュースを相談役として参画している別のNPOのアカウントで投稿することもあります。

 

ーーいくつもアカウントを運営されているんですね!菅原さんは障害者の性に関する講演をされたことがあるとお伺いしたのですが。

 

自分個人で開催したわけではありませんが、イベントの一環で。

 

ーー坂爪さんの活動は何で知られたのですか?

 

10年前くらい前に京都で行われた「障害者の性について考える会」で坂爪さんの活動を知りました。最初は胡散臭いことをしているなという印象でしたね(笑)その時は「射精に関して」という記事で、写真も何も無かったのでこれは胡散臭いなあと。その後、ホワイトハンズという名前になって、(坂爪さんも)顔出しするようになって、今度こそ聞いてみようかという感じになったんですね。

 

ーー今のご自分の役割についてはどのようにお考えでしょうか。

 

別に他の人でも良かったわけですが、誰もやる人がいなかった。他の人にも積極的に声をあげて欲しいという思いはありますが、やはり表に立つということはリスクもありますから、みんな嫌がることではありますよね。ただ、私はそのリスクについては考えていません。

 

ーーそのリスクよりも今の活動を大事にされたいという感じでしょうか。

 

顔出しには賛否両論ありますからね、賛成派の人からは顔出しで支援があったりしますが、反対派からはビシバシ叩かれます。「まだ日本では早い」と言われたり、「ただの安物の風俗じゃん」という声はよく聞かれます。それが社会の認識と言うか、そんな風に見られがちです。

 

ーーそういった雰囲気というか見方に対してはどんな風に対応したいと思いますか。

 

 

みんながみんな理解出来ることではないとは思っているので、そこを自分がどう変えていけるかというのはありますね。あとはサービスについて利用者である障害者もきちんと理解しているかという部分には疑問も残るので、利用者も周りの人もきちんと活動を理解した上で制度などが整備されていったらいいな、という感じでしょうか。

 

 

終わりに

 
インタビュー当日は、新しいスタッフの面接と研修が行われていた。介助の方法や介護的知識が盛り込まれた手引書が配布され、更に詳しい説明がなされるなど、比較されがちだという風俗店のそれとは一線を画していることが分かる。初めて「射精介助」というワードを耳にした人にとって、健康をサポートするための介助と単に欲を満たすための性風俗との違いを認識することは難しいかもしれないが、食事や休息と同じように保障されるべき日常的な行為が制限されるという恐ろしさについて考えてみれば、自ずと見方が変わるのではないだろうか。

 

障害の有無に関わらず、性についての悩みは誰しもが少なからずは抱いている。恋愛や結婚、不倫といったニュースが世間を賑しているゆえんもそこにあると考えられる。上品なテーマであるとはいえないものの、ある意味では誰にでも共有出来る話題のひとつなのかもしれない。

 

「障害者の性」、「性の公共」というと身構えてしまう向きがあるが、誰にでも語ることの出来るテーマのひとつとして捉えることで、自分の問題として考えることが可能になるのではないだろうか。ホワイトハンズのこれからの活動に注目すると共に、性の課題に柔軟に向き合う姿勢を大切にしたい。

 

 

cover photo by whitehands

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