2017.10.27

PHILOSOPHY

全盲者が映画をつくる過程を追う ドキュメンタリー映画『ナイトクルージング』

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生まれつき全盲の加藤秀幸(かとうひでゆき)さんが、監督として短編映画を制作していく過程を追ったドキュメンタリー映画『ナイトクルージング』の制作が、2018年春の完成に向けて進められている。入れ子式の構成はもちろん、「全盲者が映画を制作する」とは一体どういうことなのか、どのようにつくっていくのか単純に関心を抱いた方も多いのではないだろうか。
 
今回は『ナイトクルージング』の監督である佐々木誠(ささきまこと)さんとプロデューサーの田中みゆきさん、そして『ナイトクルージング』の中で映画の制作に取り組む加藤さんにインタビュー。映画を通して伝えたいメッセージや、障害に対する捉え方についてお話を伺った。
 
 
ーー『ナイトクルージング』はどういった映画なのでしょうか?
 
佐々木さん(以下敬称略):加藤さんは生まれつき全盲なのですが、そんな彼が監督としてSFアクション映画をつくるという企画があって、それを最初から最後まで追う、というのが『ナイトクルージング』というドキュメンタリー映画です。彼のつくるSFアクション映画には、今のところ『ゴースト・ビジョン』という仮タイトルがつけられています。近未来の惑星を舞台にした作品(になる予定)です。
 


▲佐々木誠さん
2006年に初監督ドキュメンタリー映画『Fragment』がロードショー公開され、アメリカ、ドイツなど海外上映も含め3年以上のロングランとなる。マジョリティとマイノリティの境界線に焦点を当てた作品を多く手がけており、ドキュメンタリーの手法で社会へ問題提起を行ってきた。
 

見えるか見えないかという要素はほんの一部

 
田中さん(以下敬称略):監督である加藤さんと、健常者のチームが一緒に制作していきます。加藤さんが撮りたいものを、見えるチームが解釈してカメラを回すというスタイルです。どちらかというと加藤さんが1人でどこまでできるか、というよりは周りの人と協働してどうつくっていけるかというものです。そういった意味では加藤さんが見えるか見えないかという要素はほんの一部でしかなくて、通常の映画制作の現場と変わりません。
 

▲田中みゆきさん
キュレーターとして展覧会やパフォーマンスなどの企画、書籍の構成や編集に携わる。障害を「世界をオルタナティブに捉え直す視点」と捉えカテゴリに囚われないプロジェクトを企画する。
 
 
ーーありがとうございます。加藤さんはもともとSFがお好きだったのでしょうか?
 
加藤さん(以下敬称略):SFは大好きです。単純に好きだということと、主人公が自分と同じく盲目なのですが、社会的差別とかそういうことを抜きにして作品に投じるにはどうしたらいいかなと考えた時に、近未来で地球から離れてみるのもいいかな、ということでSFにしました。
 

▲加藤秀幸さん
システムエンジニア、ベーシストとしても活動『ナイトクルージング』、そして前作の『インナーヴィジョン』に出演。SFアクション映画の監督に挑戦する。先天性全盲。

 
 
ーーどういった経緯で『ナイトクルージング』の制作を始められたのでしょうか?
 
佐々木:5年前にも加藤さんが映画を制作する過程を撮影したドキュメンタリー映画『インナーヴィジョン』を制作したのですが、ドキュメンタリーでありながらも実験映画の側面を持っていまして、加藤さんが粗い脚本をつくり、その冒頭のナレーションで終わるという作品にしました。続編をつくりたいという想いはあり、そんな時に田中さんにお会いして今に至るという形です。
 
田中:『インナーヴィジョン』は作品として私はとてもアリだと思ったのですが、脚本(文字)なので映画自体に関しては、観た方の想像にお任せする形になっています。実際に(加藤さんの脚本を)映像化するとなると、加藤さんにも健常者側にも超えるべきハードルがたくさんありますが、もっと描けることがあると思っていて、佐々木さんにお声掛けしてという経緯です。
 

共通言語をつくる

 
ーー今まさに制作途中とのことですが、準備段階も含めて大変だったことや、これから苦労するだろうなといったことはありますか?
 
佐々木:加藤さんには「視覚の記憶」が無いということで、それをどう共有して具現化していくかという部分の過程が、普通の見えている人間同士ではないので大変だとは思うのですが、そこがあるからこそ、普通の映画とは違う面白いものになるのではないかなとは思います。「すごく大変だ!」ということはあまりないかもしれません。
 
加藤:佐々木さんが言っていたように、自分には色や視覚の記憶というものがないので、映像化するためにはクリエイターの方とお互いに共通言語をつくっていかなければならない。「赤だよね」、「うん、赤だよ」ということが言えないから、そういうところで時間はかかるなとは思います。
 

-色の原理や役割を学ぶ加藤さん©️ナイトクルージング

 
田中:私は(これまで)障害に関する活動を色々やっていて、障害は確かに日常生活でサポートが必要な時とか、気をつけなければいけないことってたくさんあるのですが、「表現」に関しては圧倒的なオリジナリティを出せるという強みがあると思っているので、そこはあまり心配していません。ただ、それを健常者側のスタッフが「加藤さんの見えている世界ってすごいよね」ということだけでなく、どう物語としてちゃんと伝えていくかということが、これから難しくなってくることではないでしょうか。それがいわゆる福祉系の映画とは違ってくる部分だと思います。
 
ーー『ナイトクルージング』の制作にあたり、意識していることやこだわりは何でしょうか?
 
佐々木:僕はもともと普通の映像ディレクターだったのですが、たまたま縁があって障害を扱う作品をいくつか制作してきました。(障害があることに対して)「大変だろうな」と思うことはありますが、「かわいそう」だとか加藤さんが頑張ったことに対して「感動する」といったような感情を抱いたことはありません。作品に対して感動を求めている人には少し合わないのかなと思います。「目が見えなかったら映画はつくれない」といった思い込みを、加藤さんが映画を撮ることによって、それは違うぞという思いを伝えたいです。加藤さんには撮れると思います。
 
加藤:「できるわけないよね」と思われるのはすごく嫌です。やってみなければ分からないから、映画って何だろうなということを考えながら、自分の頭の中にある「想像している映像」と健常者が「普段見ている映像」をすり合わせて映画をつくっていきたいです。できないとは言いたくないなと。工夫すれば着地点が見えてくるというのが今の自分の考え方です。
 
田中:加藤さんも言っていたように、何をコミュニケーションの拠り所にするか、何をもってお互いが分かっているとするかというのはある意味面白い部分でもあって、加藤さんがメモがわりに使っている点字ディスプレイ(パソコンと繋げることができる)や3Dプリンターなど、昔と比べてテクノロジーのおかげで共有するためのツールって色々増えていると思います。それを使ってどう「見える」、「見えない」を超えていくかはみんな共感できると思います。
 
田中:それとは別に、私は視覚障害の方とお会いすることが多く、それが自然になり過ぎてしまっているのですが、やっぱり世の中のほとんどの人は視覚障害者について何も知りません。「全盲の人は耳がいい」といった思い込みがあったり、そういった思い込みすら無いような人がたくさんいる、という事実も拾っていかなければいけません。
 
ーー耳がとてもいい方もいれば普通の方もいて、後ろから声をかけられても平気な方もいればそうではない方もいる、ひとくくりには決してできないということですね。
 
田中:加藤さんは別に視覚障害者という特性だけを持って生きているわけでは無いので、ベースも弾けば料理もする、みんなが「障害者」というと身構えてしまう部分を崩したいという思いがあります。
 

-ベースを弾く加藤さん©️ナイトクルージング

 

自分ごと化して考えられる作品に

 
ーー今も思い込みを崩したいというお話がありましたが、『ナイトクルージング』を通して伝えたいこと教えてください。
 
佐々木:世間一般の常識や思い込みを疑えということですね。新しい発見とかそういうことも含めて、自分の思っていたものと違う世界が観た人に生まれるような、観てて楽しい痛快な映画になると思います。
 
加藤:自分のつくる『ゴースト・ヴィジョン』(仮)についてですが、まず映画って一言で表すと映像が中心なわけで、そもそも映画の始まりは音も無くて、そうすると僕らは単純には楽しめないものなんですよね。最近の映画に関しては音声解説をつけてくれたりして、少しずつ僕らも楽しめるようになってきました。それの逆で、じゃあ見えない人間が映画をつくって、どういう風に映像を考えているかということを、普段当たり前のように視覚で映像を捉えて見ている人に、少しでも分かってもらえるような作品にできればなと思っています。
 
田中:この映画は見えない人って普段どう生活しているんだろうとか、何を考えているんだろうということではなくて、見えている人も普段何を見ているのか、何を共有して分かってると思っているのか、問い直したくなるような映画になると思っています。だからあまり他人事では無いというか、自分のこととしてみんなが捉えられる作品にしたいなと思っています。
 
ーーついつい視覚に囚われてしまったり、見えているものが全てと思ってしまうことはよくありますよね。
 
加藤:人間の生活の情報量の8割が視覚と言われています。残りの2割をどれだけ広げて色々な方と共有できるかという挑戦でもあります。
 
田中:8割があるから残りが2割になってしまっているという部分もありますよね。8割が大きすぎて他のことを考えなくてもなんとなくやり過ごしてしまっているというような。
 
ーー8割がなくなってしまったからといって残りが2割になってしまうというわけではないということですよね。最後に読者に向けてメッセージがありましたらお願いします。
 
加藤:脚本を書いているうちにどんどん壮大になっていってしまって、何も知らずに書くというのは怖いものですね。ということでクラウドファンディングの力を借りることになりました。協力していただければと思います。よろしくお願いします。
 

 
1952年に公開されたジーン・ケリーのミュージカル映画『雨に唄えば』では、無声映画からトーキー映画への過渡期にある制作現場を舞台に、主人公たちが奮闘する様子が描かれた。『ナイトクルージング』でも既成概念にとらわれない発想や、これまでの映画に対する問題提起が、入れ子式の2本の映画を通して行われるのではないだろうか。来年春の完成の際には、映像なしで視覚情報を補う音声ガイドを通して映画を観る「暗闇上映」も行われる予定だという。視覚に限定された世界からスタートした映画は長い時代を経て、より多感覚的に受け取ることが可能になった。もはや「見える」、「見えない」ではなく、いかに「感じられるか」が映画の本当の捉え方なのかもしれない。
 
加藤さんのお話の中にもあったように、視覚に問題がない限り、人は情報認識の8割を視覚に頼って生きていると言われている。残りの2割をどのように使っていくかはその人次第だ。
 
 
クラウドファンディングページ|全盲者がつくる映画。見えないことで見えてくる世界を伝えたい!

 

ナイトクルージング NIGHT CRUISING
 
 
Cover photo by NIGHT CRUISING

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