2018.01.16

INSIGHT

『完全自殺マニュアル』著者の鶴見さんにインタビュー 「生きづらい」社会をどうするか

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2017年10月末、座間市内のアパートの一室でクーラーボックスなどに入れられた9人の遺体が発見されるという事件が起きた。容疑者は被害者とTwitterや会員制の交流サイトなどのSNSを通じて知り合ったことが判明している。「死にたい」といった自殺願望を匂わす投稿に目をつけて被害者と連絡をとり、自宅で凶行に及んだ。後の報道では容疑者が「本当に死にたいと思っている人はいなかった」と供述していることも明らかになっている。「死にたい」と「生きたい」の狭間で戦い続けていた彼女たちが、本当に必要としていたものはなんだったのだろうか。
 
厚生労働省の統計によると、平成28年度の自殺者数は21,897人で前年と比較すると8.9%減。22年振りに22,000人を割った。しかし依然として日本の自殺死亡率は先進国の最低レベルで、全体数の減少と比較して若年層の減り幅は小さいという統計結果も発表されている。
 

-警察庁自殺統計原票データより厚生労働省作成

 
1993年に出版された『完全自殺マニュアル』(太田出版)には「クスリ」から「凍死」までありとあらゆる死に方がケーススタディと共に掲載されている。出版当時は、「自殺の方法」というこれまでにはない衝撃的なテーマで描かれた本ということもあり、賛否両論様々な意見が交わされた。今回は著者である鶴見済(つるみわたる)さんに、座間事件で改めて浮き彫りになった「自殺」を取り巻く環境の課題や、書籍出版時の抱いていた思いについてお話いただいた。
 

▲鶴見済さん
フリーライター。1993年の『完全自殺マニュアル』を皮切りに、社会のあり方について考える本を多数出版。2017年12月に新刊『0円で生きる』〜小さくても豊かな経済の作り方〜が新潮社より発売中。
 
ーーまず始めに、現在はどのような活動をメインされているのでしょうか
 
今もフリーライターとして本や雑誌や新聞の記事を書いています。あとはトークのイベントや大学の講師をしたり、不要品を集めて無料放出する<0円ショップ>に参加したり、「生きやすい社会」、「生きやすい街」づくりについての活動をしています。
 
ーーありがとうございます。ユニークな活動が多いんですね。ライターとして活動を始めたきっかけは何でしょうか。
 
きっかけというほどのものは無いのですが、前からずっと文章を書く仕事をしたいと思っていました。就職した企業を辞めてから雑誌に記事を書いたりするようになり、徐々にライターとして活動するようになりました。
 

「死にたい」感情は決して異様なものでは無い

 
ーーさっそくですが、昨年10月末に発覚した座間事件について考えていきたいです。容疑者は殺害対象者をTwitterや自殺志願者が集う掲示板で探していたことが報道されました。その後、被害者の情報も含め自殺について取り上げるニュースが多かったように思いますが、そういった報道に対してはどのように受け取りましたか。
 
自殺に絡んだ事件があると、自殺を薄気味悪いもの、犯罪のようなものとして捉える風潮は少なからずあって、今回の事件にしても死にたい気持ちを語り合っている人たちを一種異様なものとして報道している感じは相変わらずだなと感じました。例えば集団自殺なんか完全に犯罪みたいな扱いですよね。私が出版した『完全自殺マニュアル』も「一歩間違えればオウム真理教になる」と言われたこともあります。
 
「自殺したい」とか「死にたい」と発信する人って、つまり今の社会で生きづらくて苦しんでいる人じゃないですか。自殺という行為だけにフォーカスして「死にたい」と思う人を特別な恐ろしいものとして描くのではなくて、誰にでもそういった状態になる可能性があるということを踏まえて、社会全体の「生きづらさ」の問題として捉える必要があると思います。
 
ーー確かに何が原因で生きづらいのかということよりも、自殺という行為に注目しすぎてしまっていることはあるかもしれませんね。
 
もちろん自殺を回避できるならそれに越したことは無いのですが、だからといって「死にたい」と言う人の気持ちを頭ごなしに否定したりするのって、やっぱりおかしいと思うんです。それはそれでその人の深い経験から出てきた感情だから尊重するべきですよね。
 
ーーTwitterなどのSNS上で「死にたい」だったり自傷行為をほのめかすような投稿を繰り返す方もいますが、それについてはどのように受け止めますか。
 
投稿することでその人が楽になるなら良いと思っています。その投稿を見て安心する人もいるんじゃないかな。私もTwitterなんかで生きづらさのつぶやきを結構読んでいますが、「辛い」って誰でも思うことだし、4人に1人は「死にたい」と考えたことがあると統計でも明らかになっています。(※1)なかなかリアルでは話すのに勇気がいることなので、ネットで同じような悩みを発言している人のつぶやきや投稿に勇気付けられることもあるのではないでしょうか。自分でもありますから。だからもっとそういった発言を気安く言えるような環境にしていく必要があると思います。
 
※1 日本財団自殺意識調査2016より。2016年8月28〜29日にネットネット上で行われた調査で20歳以上の男女4万436人が回答した。過去1年以内に「本気で自殺したいと考えたことがある」と回答した人は25.4%。
 
ーー辛さを吐き出しやすい場づくりが必要とされているということですね。SNS上での自殺や自傷行為をほのめかすような投稿に対しては、様々な対策が検討されていますが、そういった投稿を規制したり、削除していくという方法についてはどう思いますか。
 
まだ、具体的にどのような対策がなされるのかは分かりませんが、もう既にそういった投稿をしにくいような気がします。そもそも、犯罪でも人を中傷するようなものでもない個人的な意見を、規制することができるなどということになれば恐怖を感じます。
 

死のうと思えばいつでも死ねるから今は生きよう

 
ーー鶴見さんの著書『完全自殺マニュアル』について、出版から20年以上が経ちますが、改めて出版の意図は何だったのでしょうか。
 
本を出版した1993年頃までというのは、今よりももっと自殺志願者や実際に自殺してしまった人にさえ「心が弱いんだ」、「もっと強く生きろ」と言われていた時期でした。私自身も「死にたい」という気持ちを抱えていた時期が長かったですし、そういった風潮に対して腹が立っていたということが理由のひとつにあります。
 

 
自分の通っていた中学校で作文コンクールが行われた時に、自殺について書かれた作文が優勝しました。「自殺する人たちはなんて弱いんだろう、親からもらった命をどう思っているんだろう」という内容でした。そういった風潮に何か言えないだろうかという思いが非常に強かったですね。
 
ーー鶴見さんの学生時代や『完全自殺マニュアル』が出版された時代の風潮は、今とだいぶ異なっていますよね。自殺に対して否定的な意見も多い中で出版されたわけですが、どういった人に読んでもらいたいと考えていましたか?
 
いちばんは悩んでいる人に読んでもらいたいという想いがありました。「生きづらさ」を抱えている人や、自殺を取り巻く社会状況に憤りを抱えている人ですね。私と同じように「命の大切さを分かっていない」といった説教的な意見に辟易していた人からの感想も多くありました。
 
ーー出版の時に込めた想いというのは、今でも変わりませんか。
 
「いざとなったら死んでしまうこともできるのだから、気楽に生きていこう」というメッセージを伝えたくて出版しましたが、そういったところは出版当時からも基本的には変わりません。
 
ーー「命は大切なものだから死んではいけない」と「死のうと思えばいつでも死ねるから今は生きてみよう」は、目的は同じでも受け取り方は違いますよね。
 
とりあえず開き直ってみて「死にたい」気持ちを先延ばしにしていく。実際に「死にたい」と考えている人に対して「本当に今でなくてはならないのか」といった話をしたこともあります。とにかく「死にたい」という気持ちを頭ごなしに否定するというやり方は本当によくないと思っています。
 

オルタナティブな世界をつくる

 
「生きづらさ」について考える時に、人間関係ってすごく重要なポイントになってくると思うのですが、学校や会社にほぼ毎日のように通って、朝から晩まで過ごす。これってすごく長いですよね。人間関係において絶対失敗なんてできない。思い切って学校や会社を辞めたら今度は全くの孤立状態になってしまったり。「普通の社会」から降りたら降りたで、居場所が無いという現状があります。
 
ーー少しでも「生きやすい」社会にするために、やるべきことやこれからできることは何でしょうか。
 
オルタナティブな世界をつくるということはよく言っているのですが、学校とか会社ではない別のつながりのある世界があれば、自分にあった人間関係の場所で過ごせますよね。お金を稼ぐということが苦手な人も世の中にはたくさんいると思いますが、そういう人でも生きていくことができるオルタナティブな世界があるといいですね。
 
「生きづらい」原因というのは経済的な要素も結構大きくて、そうした原因を少しでも改善したいという想いが、今の私の活動である生きやすい場、環境づくりに繋がっています。
 
ーーオルタナティブな世界をつくるためにひとりひとりができることは何でしょうか。
 
「みんながやっているからやらないといけない」としがみつくのを辞めることでしょうか。学校の部活動についてもそう思います。誰もが孤立することを恐れて辞めることができないことがあるならみんなで降りてしまえばいいと思います。
 

-Shutterstock/ maroke

 
座間事件以降インタビュー中にもあるように、SNS上で自殺や自傷を匂わす投稿への対応が検討されるなど「生きづらい」気持ちを抱える層への対策が少しずつ進んでいる。ただ、「死にたい」と考えている人への対策はもちろん、誰もが生きやすい場づくりが重要と語る鶴見さんの言葉にもあるように、自殺という行為だけに注目するのではなく、生きづらいと感じてしまう社会に疑問を持ち、その環境を変えていくことが今後の課題ではないだろうか。
 
 

取材協力:PRONTO

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