2018.08.03

PHILOSOPHY

遊廓専門書店「カストリ書房」の渡辺豪さんと考える②AIが接客する風俗の未来

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日本唯一の遊廓専門書店「カストリ書房」の店主で遊廓家の渡辺豪さんへのインタビュー後編。そもそも渡辺さんが「遊廓」に興味を持った経緯や、AIが介入する風俗についてお話いただきました。
 
前編はこちら
遊廓専門書店「カストリ書房」の渡辺豪さんと考える①リアルな体験の場としての書店
 

まだ誰にも見つけられていない遊廓を見つけたい。

 
ーーそもそも、渡辺さんが遊廓に関心を持ったきっかけはなんでしょうか?
 
何か特別な原体験があるというわけではありません。強いていえば旅行が好きでよく行っていました。旅行に行くと街の中心から少し離れたところに、今は少しさびれているけれど華やかさの面影を感じるような場所がありますよね。そういった「ど真ん中の観光地」とは異なる変わった空間に疑問を抱いて、調べてみたら遊廓跡だったということがありました。街の記憶からは消えかかっているけれど、まるで土地に記憶を宿しているかのようなところに魅力を感じたんです。
 
ーー旅行先できっかけに出会ったのですね。これまで全国様々な遊廓を巡られてきたと思うのですが、特に魅力的に感じた場所はどこですか?
 
変な言い方になりますが、まだ誰も見つけていない遊廓に魅力を感じます。何でそんなことを言うのかというと、大正期の統計では戦前の遊廓の数は約550箇所。これはほぼ正確な数値といわれています。平均して1都道府県に10箇所は存在していた計算になります。東京の吉原や大阪の飛田新地など、今でも遊廓地帯として残っている場所の方が珍しい。もうどこにあったのか分からなくなっている場所の方が圧倒的です。当時おおやけに認可されていた遊廓とは別の、いわゆる私娼窟(※1)はその倍以上あったといわれているので、日本には公認か非公認かは別として売春街はいたるところにあったわけです。
 


 
遊廓がその土地にできた理由もとても興味深いんです。海の近くの土地だと港の周辺に遊廓が集まります。エンジンがなかった時代は風の力で船が走行されていたので、風がなかったり嵐が来たりすると船は走れません。走れないときは港に寄港するわけですが、そうした時に船乗りさんたちが遊廓で遊ぶわけですよね。日本に鉄道が敷かれる前の時代は、物流のために日本海側を北前船(※2)が走っていました。当時の遊廓は、内陸より海沿いに形成されました。その土地の遊廓について調べることが、その土地の産業史について調べるのと同義になってくる、そういったところに僕自身面白味を感じています。男と女が金と引き替えにセックスする場、つまり買売春エリアと言ってしまえば身も蓋もありませんが、遊廓ができた理由を紐解いていくとその土地ごとの特色が分かってくるんですよね。
 
ーー全てがつながっているんですね。昔の遊廓と今の風俗で捉えられ方や受け取られ方ってどのように変化していると思いますか?
 
遊廓があった時代の方が「男の甲斐性」という捉えられ方である程度「女遊び」というものが容認されていたように思います。社会的身分のある人が妻の他に女性を囲っていることも多々ありましたよね。今では有名人が浮気したら即記者会見という時代です。もちろん程度の差はありますが、当時の方がある程度そういった存在は容認されていたのではないでしょうか。
 

 
今の若者たちは一晩の遊びに何十万、何百万と使うようなバブル世代とは全く異なる生き方をしていて、10年後も同じように稼げるという未来への希望を持って生きている若者って、上の世代が思う以上に少ないのではないでしょうか?次に入ってくるお金が不確定であれば不用意に使わずに貯めていきますよね。そうなるとパーっと使ってやるかという感覚は減っていく。未来になかなか希望が持てず、気持ちの上で生きづらさを抱えている人たちが精神的な癒しを求めて風俗に行っているという例が増えているように感じます。
 

AIが接客する風俗の未来

 
ーー最近ロシアにAIロボットが接客する風俗店が誕生したというニュースがありました。遊廓があった時代も、そして今の風俗も人が接客するということが当たり前のところにロボットが参入したらどうなると思いますか?
 
風俗に限らず接客業って接客している側が消耗してしまう一面がありますよね。もちろん接客の仕事にやりがいを感じて、楽しいと感じている人はたくさんいます。でもやりがいを感じながらも辛いと感じている人もとても多いと思うんです。そういった意味では、AI(ロボット)が介入することによって救われるという側面はあるのではないでしょうか。人間の肉体的な負担を軽減するために、これまでたくさんのテクノロジーが介入してきました。例えば重い荷物の移動を人力ではなくトラックやフォークリフトが担うといったような。これからはそういった肉体的な負担だけでなく、精神的な負担をAIが担ってくれたらいいなとは思いますね。
 
ーー今後普及が進んでいくことが予想されますが、全てがAIに成り替わるということは考えづらいですよね。
 
人が担う部分とAIが担う部分がくっきり分かれていくのではないかと思います。AIとはまた違う話かもしれませんが、疲れている時にご飯食べる時って可能なかぎり楽に食べたいですよね。ファミレスやファーストフードで黙々と空腹を満たしたい。でも誰かと話してコミュニケーションをとりながらお酒を楽しみたい時には、スナックに行ったりゴールデン街に行ってみたりする。
 

 
その時々によって人との接し方に求めるものは変化するので、全てがAIに成り替わるということは近しい未来には起こらないと考えています。今日は人のいる風俗に行きたいと思う時もあれば、AIの風俗に行きたい日もあるといった具合に選択の幅が広がるというのはいいことですよね。
 
ーー最後にこれからの目標や、新しく挑戦していきたいことは何でしょうか。
 
自分の肩書きを形にしていきたいという思いがあります。こういったインタビューを受けるにしても「カストリ書房店長」という肩書きがいちばん分かりやすいですよね。それについては全く問題ないのですが、本当の意味での自分の肩書きって何だろうと。
 
ーー具体的な肩書きは考えているのですか?
 
「遊廓家」を名乗ろうと考えています。例えば「料理人」というと素材をいかにうまく調理するかを追求するスペシャリストですよね。でも「料理家」は料理という手法を使っていかに魅力を伝えるかというところに重点が置かれていて、業種ではない。僕自身、出版からスタートしていますが、生まれてから一度も書店の店長になろうとは思ったことはないですし、業種に対する執着は全くありません。むしろ執着は無くしていった方がいいと思っています。遊廓についての情報を知らない人がどんどん増えている中で、伝えることに重点をおいてそれを職業とした方が色々なことに挑戦できます。遊廓というテーマで食っている最初の人間になりたいです。
 
※1私娼窟:公に認められていた訳ではないが、売春を行う女性が多く存在した地域
※2北前船:江戸時代から明治時代にかけて利用された日本海側の物流ルート
 
 
風俗業に限らず、接客業の課題解決の突破口としてAIが活用される未来がすぐそこまで来ているかもしれないと話す渡辺さん。テクノロジーの発達に伴って手段は変化しますが、「快適に暮らしたい」という人間の欲求は変わることがありません。私たちが抱きがちな「人の仕事がロボットやAIに奪われてしまうのではないか」という危惧自体に疑いの目を向ける必要がありそうです。
 
変わりゆく社会状況の中で、かつて栄えた遊廓は今後人々にどのように受け取られていくのでしょうか。物語の中の話でもどこか遠い国の話でもない、実際に日本に存在していた遊廓文化が色褪せていくのは少し寂しい気がします。興味を持った方は是非渡辺さんが店主を務める「カストリ書房」に足を運んでみてはいかがでしょうか。
 
前編はこちら
遊廓専門書店「カストリ書房」の渡辺豪さんと考える①リアルな体験の場としての書店
 
 
カストリ書房

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